AIで開発が速くなるほど、タスク整理が重要になる理由
AIを使うことでタスク処理は速くなるが、次に何をやるかを先に考えておかないと、AIの力を最大限に活かせない。AI時代におけるタスク管理の重要性を整理する。
AIを使って開発を進めていると、目の前のタスクを処理する速度はかなり上がります。調査、設計のたたき台、影響範囲の確認、テスト観点の洗い出しといった作業をAIに任せられるようになると、人間がすべて直列で処理していた頃よりも明らかにタスクの進みが早くなります。
ただ最近、その一方で別の問題も感じています。それは、次にやるべきことが整理されていないと、AIをうまく使い切れないということです。AIによってタスク処理が速くなるほど、目の前の1〜2週間分のタスクだけでは足りなくなり、もっと先の1か月、2か月先のタスクまで見えていないと、すぐに「AIに何を任せるべきか」がなくなってしまうのです。
この点については、以前「AIの並列実行はマルチタスクではない」という記事でも触れましたが、重いタスクをメインで進めつつ、AIに任せられるタスクを並列で動かす開発スタイルでは特に顕著になります。タスクは往々にして連絡や確認などのレスポンス待ちで滞留することがあります。AIがない時代はそうした停滞期も含めて1〜2週間先の予定が立っていれば何とかなる場面も多かったのですが、AIをフル活用すると、人間側にもっと先のタスクを考える余裕(あるいは必要性)が生まれます。むしろ意識的に先々のタスクを整理しておかないと、AIに任せるべき仕事が底を突いてしまうという事態が発生します。
この記事では、AI時代において「次に何をやるか」を先に考えておくことの重要性と、そのためのタスク整理のポイントを整理します。
AIはタスクをなくすのではなく、圧縮する
AIを使うと大量のタスクを捌くことができて作業が速くなりますが、実際にはやることがなくなっているわけではありません。むしろ自分の感覚では、AIはタスクをなくすというより圧縮するものです。今まで人間が1つずつ調べて、考えて、整理していた作業をAIがかなりの速度で進めてくれる結果、1日かかっていた調査が数十分で終わり、半日かかっていた設計のたたき台が短時間で出てくるようになります。
ただし、圧縮された結果を受け取るのは人間です。AIが3並列で動いてくれるなら、人間は3並列分の結果を受け取り、判断し、次の行動に変換する必要があります。
AIがない状態では、人間がせいぜい1つか2つずつ調査・整理・判断をしていましたが、AIがある状態では、AIが複数の調査・整理を並列で進め、人間はそれらの圧縮された結果を次々と受け取って判断していくことになります。この状態になると、単に「AIで楽になる」というより、時間あたりに処理するタスクの密度が上がるという感覚に近いです。


目の前のタスクだけでは足りなくなる
AIを使う前は、直近1〜2週間のタスクが整理されていれば、ある程度は開発を進められました。理想を言えばもっと先まで整理されている方が良いですが、実務では「直近でやること」が見えていれば、ひとまず進められる場面も多かったと思います。
しかしAIを使うと、この前提が変わります。タスクの処理速度が上がるため、以前なら2週間かかると思っていた調査や実装がAIの支援によって1週間で終わってしまうといったことが頻繁に起きます。そうなると、次に問題になるのは「次に何をやるのか」です。AIを動かせる余力はあるのに、任せるべきタスクが整理されていない。この状態になると、AIを活用しているようで、実はあまり価値の高い使い方ができなくなります。
「AIが空いているから何かやる」は危ない
AIを使える状態になると、「一旦、テスト見直して増やそう」「やりたかったリファクタリングをしよう」と空いた時間を埋めたくなります。もちろんこれらは重要ですが、「手が空いているから」という理由で始めるのは危ないと思っています。ロードマップやプロダクトの優先順位とは関係なく、空いているリソースを埋めるための作業になりやすいからです。
AIは必要なことを速く進める力にもなりますが、同時にやらなくてもよいことを大量に進める力にもなります。だからこそ重要なのは、AIがあるかどうかではなく、やるべきことが上から順に整理されている状態を作ることです。
たとえば「良くない状態」としては、AIが空いているからと何かできそうなことを探し、結果として優先順位の低い作業が増えてしまうケースです。対して「良い状態」とは、1〜2か月先までタスクが整理されており、優先順位が並んでいる中からAIに任せられる部分を先に進めていける状態を指します。
AIを使う時代ほど、「何をやるべきか」が整理されていることの価値が上がると思っています。
先取り調査ができるようになる
AIを使うメリットとして特に大きいのが先取り調査です。たとえばプロジェクトAを進めながら、1週間後に予定されているプロジェクトBの調査をAIに並行して進めさせることができます。
今までのAIがない状態では、人間がプロジェクトBの調査に深く入るとコンテキストスイッチのコストが高く、メインのタスクが疎かになりがちでした。しかしAIがあれば、人間はプロジェクトAに集中しつつ、その裏側でAIにプロジェクトBの調査やリスクの洗い出しをさせることが可能です。これにより、プロジェクトBに移った初日からフルスピードで動き出すことができます。
プロジェクトの立ち上がりには、前提条件の確認や関係者の把握など多くの時間がかかります。こうした情報があらかじめ整理されているだけで、開発の初速は劇的に変わります。これは機能単位の開発でも同様で、今作っている機能Aの裏で、次に来る機能BやCの地ならしをAIにさせておくことで、未来のタスクの摩擦を先に減らしておくことができます。
中長期のタスク整理が重要になる
先取り調査をするためには、当然ながら先のタスクが見えている必要があります。次に何をやるかわからない状態では、AIに先取り調査を任せようがありません。
だからこそ、AI時代には中長期のタスク整理がより重要になります。以前なら直近1〜2週間で何とかなったものが、AIによる速度向上で1か月、できれば2〜3か月先くらいまで大きなトピックが整理されていることが望ましくなります。完璧なタスク分解は不要ですが、優先順位や依存関係、調査が必要な箇所が見えている状態を作ることで、AIに任せるべきタスクが自然に浮かび上がってきます。
AI時代におけるPJM的な役割の価値
AIによって開発速度が上がると、チームはより先のタスクを見ながら動き、外部との調整も前倒しで行う必要が出てきます。これを開発者が実装しながら並行して行うのは負荷が高いため、AI時代にはPJM(プロジェクトマネージャー)的な役割の価値がより高まると感じています。
1〜2か月先のタスクを整理し、AIに任せやすい粒度に分解し、チームが次に動き出しやすいように「石ころ」を除去する。従来のPJMと違うのは、AIによるタスク消費の速さと並列処理を前提とした開発スタイルを意識し、「AIに何をさせればいいか分からない」という新種のボトルネックを解消する動きが求められる点です。
まとめ
AIがない時代は、実行速度が比較的遅かったため直近のタスク整理でも何とかなる場面が多かったかもしれません。 しかし、AIがある時代は、実行速度が上がることで直近のタスクだけではすぐに不足し、中長期の整理と先取り調査が重要になります。
AI時代に必要なのは、ただ手を速く動かすことではありません。次に進むべき方向を早めに見える状態にし、誰でもタスクを上から取るだけで進められる「整理された状態」を維持し続けること。それがAIの力を最大限に引き出す鍵だと思っています。